
田舎でコンビニを営む筆者が東京研修で見たのは、レジに列をなす光景と、駐車場のない店舗の成功。そのギャップに驚愕した記録。
大雪と田舎コンビニのリアル
都市部との違いに感じること…
「何度でも言いますが、今年は本当に久しぶりの大雪でした。」
この一言が、今年の冬のすべてを物語っているように思います。
例年、多少の降雪はあっても、ここまで積もることは珍しい。
屋根の上に積もった雪がズシリと重みを感じさせ、通勤時の足取りもどこか慎重になる
──それが今年の冬の日常でした。
天気予報が外れたわけではありません。
むしろ、正確に当たっていたからこそ、「覚悟」はしていたつもりでした。
それでも、現実の雪の量、連日の降雪、除雪作業の過酷さを前にすると、「自然の力はやはり想像を超える」と痛感させられるばかりです。
私たちの日常生活に直結する交通やゴミ出し、通学・通勤ルート、そして何より商売──すべてが雪の影響を受けるなか、コンビニ経営も例外ではありませんでした。
積雪がひどい日には、駐車場へのアクセスが悪くなり、来店数も目に見えて減少。
近隣のお客様が「今日はやめておこう」と思ってしまうのも無理はありません。
そんななかでも店舗を開け、足元を整え、商品を並べてお客様を迎えるのは、まさに根気と気力の勝負です。
たとえば、朝早くに出勤してまずやることは除雪。
店前の歩道、駐車場、出入口──シャベルを手に一汗かいた後でようやく店内に入り、商品の補充やレジの準備に取りかかる。
寒さで手足がかじかむなか、普段以上に体力を消耗する日々でした。
しかし、それでも「ありがとう、助かったよ」と声をかけてくれる常連さんがいる。
その一言で、疲れが和らぎ、「やっててよかった」と思える瞬間があるのです。
こうした経験は、都市部での店舗運営とはまた違った意味での「やりがい」なのかもしれません。
大雪という試練を通して、地域との絆や感謝の気持ちがより深く感じられる──
それが田舎のコンビニを営む者としての、冬の誇りでもあるのです。
雪の降らない地域がうらやましい理由
雪の降らない地域にお住まいの方は、冬の寒さはあっても、あの「毎朝の雪かき」や「滑る歩道」「雪に埋もれた車」の苦労はありません。
特に朝早く起きての雪かきは、体力的にも精神的にも大きな負担です。
腰を痛めるリスクもありますし、滑って転ぶといった事故も毎年のように起きています。
そう思うと、正直うらやましくもあります。
また、雪が降れば当然物流にも影響が出ます。
トラックの到着が遅れれば商品の陳列が間に合わず、場合によってはお客様の期待を裏切ることにもなりかねません。
交通が滞れば、お客様自身が来店をあきらめるケースもあり、売上に直接響くこともあります。
特に、都市部と違って田舎のコンビニでは、駐車場が“生命線”といっても過言ではありません。
都市部では徒歩や自転車での来店が多いかもしれませんが、地方ではほとんどが車。
しかもその車も、雪が積もっていれば発進に時間がかかり、駐車場が除雪されていなければ「今日は行かないでおこう」となってしまうのです。
そのため、駐車場がどれだけ広く、きちんと除雪されているか、そして停めやすいかが、そのまま来店数に直結してきます。
私たち店舗側からすると、これは“売上の根幹”といっても過言ではありません。
だからこそ、雪の少ない地域、あるいはまったく降らない地域のコンビニ経営は、ある意味でうらやましくもあるのです。
融雪設備の有無が命運を分ける
ところが、そんな田舎のコンビニでも、店舗ごとに融雪設備の有無で明暗が分かれます。
というのも、融雪装置は地下水(井戸水)を使う方式が一般的であり、店舗の建設段階で設置の有無が決まってしまいます。
そのため、建設時に予算や地域条件によって導入を見送った場合、後から追加するのは非常に困難なのです。
後付けが難しく、費用も100万円以上と高額。
工事には水道設備や排水設備の調整も必要で、道路の掘削や近隣との調整なども発生します。
しかもそれを行うのが雪の降る季節ともなれば、さらに難易度は上がります。時間的にもコスト的にも現実的とは言えません。
つまり、最初に融雪設備を導入できなかった店舗は、雪が積もるたびに営業に大きな影響を受けるリスクを抱えているのです。
早朝からシャベルを持ち、氷点下の空気の中で駐車場や出入口の除雪を手作業で行うのは体力的にも厳しく、従業員の負担も大きくなります。
さらには、うまく除雪できていないことで車の出入りが不便になり、お客様に敬遠されてしまうという悪循環も起こり得ます。
実際、私の住む地域でも、融雪装置のあるコンビニと無いコンビニとでは、お客様の来店数に大きな差があります。
道路が凍結しているような朝、どちらに行くか?
と問われれば、足元がきれいに整備され、駐車場も広く雪がなく、安全に出入りできる店舗へ足が向くのは当然の心理です。
また、積雪時の来店頻度だけでなく、店舗への信頼感にも影響します。
「あそこはいつも除雪が行き届いている」
という印象を持ってもらえるかどうかは、実は売上以上に大切なポイントでもあると私は思っています。
こうして見ると、融雪設備の有無は単なる“設備差”にとどまらず、地域に根ざすコンビニの運営にとっての生命線であり、信頼関係の土台でもあるのです。
東京での研修で見た“別世界”
十数年前、私は妻とともにチェーン本部のある東京で、コンビニ開業前の研修を受けました。
そのときに見た光景は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。
まず最初に驚かされたのは、駐車場が“ない”店舗の多さでした。
私たちにとってコンビニといえば、広い敷地に車が数台は停められるスペースがあって当たり前。
ですが、東京の店舗は違います。
駅近の細い路地に面した店舗や、ビルの1階部分に間借りするような「ビルイン店舗」が大半。
車で来るという発想そのものが、前提として存在していないような立地だったのです。
にもかかわらず、そこへ津波のように押し寄せる人・人・人。
朝のラッシュ時には、通勤中のビジネスパーソンや学生がひっきりなしに来店し、弁当やコーヒー、新聞などを手にレジに並ぶ光景が繰り広げられていました。
その流れがまったく途切れず、まるで止まらないベルトコンベアのように、次々と人が吸い込まれていくような印象を受けました。
田舎者の私と妻は、その様子にただただ圧倒され、目を丸くして店先で立ち尽くしていたのを今でも覚えています。
さらに衝撃だったのは、レジ待ちの列です。
私たちの地元では、お祭りやイベントがある日くらいしか見かけない“レジに並ぶ”という行為が、東京では完全に日常の一部となっていました。
特に印象的だったのは、研修中に私たちが泊まっていたホテルの近くにあったコンビニ。
毎朝7時を過ぎると、店内には5人、10人とレジ待ちの列ができ、それがまったく異常に見えない。
むしろ、周囲の人たちはそれを当たり前のように受け入れているようでした。
朝食を買うだけのつもりで並んだあのとき、私は「こんなにも日常に“待つ”という行為が組み込まれているのか」と驚くと同時に、どこか都会ならではの余裕というか、文化の違いのようなものを感じました。
この経験は、私たち夫婦にとって一種のカルチャーショックであり、また商売を始めるうえで「地域によってこれほど違うのか」という現実を知る重要な気づきにもなりました。
売上と損益分岐点のバランス
当時、東京で見た店舗には、レジが4台~5台あるところもあり、「どれだけの客数が来ているのだろう」と想像もつかないほどの混雑ぶりでした。
一日中絶え間なくお客様が来店し、レジがフル稼働している様子は、田舎の店舗からは想像しにくいものでした。
もちろん、都市部と田舎では家賃も全く違います。
東京の店舗は賃料だけで数十万円、いや、立地によっては100万円を超えることもあるかもしれません。
そこに加えて人件費や光熱費なども高水準で推移しており、その分、毎日の売上に求められる数字も桁違いに高くなります。
つまり、東京のような都市型の店舗では、朝から晩まで高い来店数を維持しなければ、損益分岐点を超えることは難しいのです。
1日の来客数がわずかでも落ち込めば、たちまち収支に響いてくるシビアな経営環境です。
一方、田舎の店舗は土地の賃料が安く、駐車スペースも広く確保できるなど、物理的なゆとりがあります。
固定費も都市部に比べれば抑えられるかもしれません。
しかし、その反面、人口密度の低さや競合との兼ね合いから、そもそも客数そのものが伸びにくいという課題があります。
また、営業時間を短縮したり、取扱商品を減らすなどしてコスト削減を試みようとしても、それがサービスの低下と見なされ、リピーターの離脱につながるリスクも無視できません。
お客様は利便性と安定を求めてお店に通ってくれるわけですから、小さな変化がそのまま売上に響くのです。
さらに、天候や地域のイベント、周辺施設の動向など、田舎ならではの外的要因も売上に大きく影響します。
たとえば、近くの高校が休校になった日には、一気に売上が落ちることもあります。
つまり、都市型・地方型、どちらにもそれぞれ異なる苦労と経営上の工夫が求められるということなのです。
それぞれの土地で、それぞれのやり方で、その地域のニーズに合った運営を模索し続ける。
それがコンビニ経営の現場のリアルなのだと、あらためて実感しています。
今でも都会は“別世界”
今では、東京をはじめとする都市部には滅多に行かなくなりました。
昔は研修や会議で何度か訪れる機会もありましたが、年齢を重ねた今では、電車の人混みや騒がしさが少し堪えるようになってきたのかもしれません。
それでも、たまに行く機会があると、相変わらずの人の多さに圧倒されます。
駅から駅へ、ビルの谷間を縫って流れるように動く人々。
コンビニの前でたむろするビジネスマン、スマホを片手に行き交う学生たち。
信号のタイミングすら気にせず、目的地へ一直線に進むスピード感に「これが都会のテンポか」と感じさせられます。
昼休みのオフィス街では、小さなコンビニにも長蛇の列ができ、サンドイッチとコーヒーを片手に急ぎ足で戻っていくサラリーマンの姿。
その慌ただしさに、田舎のコンビニでは見かけないような「せわしなさ」が、街の空気に染みついているように思えました。
それを見て、「やっぱり都会ってすごいな」と思う一方で、根っからの田舎者の私は、やはりどこか落ち着かない気持ちになります。
人混みが続く改札口の中を歩きながら、ふと「早く帰りたいな」と思ってしまう。
便利ではあるけれど、私には少し刺激が強すぎる場所なのかもしれません。
「住めば都」とは言いますが、私にとっての“都”は、やはり今住んでいるこの田舎町なのかもしれません。
コンビニの隣には田んぼが広がり、顔なじみの常連さんが「おはよう」と声をかけてくれる。
そんな空気のなかで、毎日を重ねていけることが、何よりの幸せなのだと感じます。
冬の大雪、除雪の苦労、そして売上との戦い。
それでもこの町で、コンビニを続けていこうと思えるのは、日々訪れてくれるお客様の存在があるからです。
融雪装置がなくても、雪かきをして足元を整え、明かりを灯して待っている。
その姿勢に気づいてくださるお客様がいるから、なんとか踏ん張れるのです。
寒い朝に「大変だね、ありがとうね」と声をかけられたときのうれしさは、どんな売上よりも心に沁みる瞬間です。
これからも、この町の一角で、変わらぬ笑顔とあたたかさを届けていけたらと思っています。
都会の輝きにはない、素朴な日常の価値を守りながら、地に足のついた商売を続けていきたい──そんな思いを胸に、明日もまた店頭に立ち続けるつもりです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。