
14年のコンビニ経営で経験した、忘れられない実話をお届けします。「親切心が裏目に出る」とは、まさにこのこと。善意で渡したダンボールが、まさか“住処”になるなんて…。
親切心が裏目に出る日 〜あるコンビニオーナーの静かな怒り〜
コンビニという仕事は、静かに、しかし確実に時代の波にのまれている。
M&A。今や大企業だけの話ではないらしい。
私が加盟しているコンビニチェーンも、例外ではないようで、耳を澄ませば、あちこちからさまざまな話が聞こえてくる。
店舗統合、新規契約の調整、地方店舗の買収…。
ただ、今日の話題はそのことじゃない。
あの話はまた今度、別の機会にじっくり書くとして——。
このブログを始めた頃は、たしかコンビニ経営も10年目くらいだったと思う。
気がつけば今、もう13年目を終え、14年目に手が届こうとしている。
「もうそんなに経ったのか…」
年を重ねるのは悪いことじゃないけれど、時間の流れはときに残酷で、思い出すたびに胸の奥が少しだけ締め付けられる。
変わったのは、自分の年齢だけじゃない。
街も、人も、そしてコンビニという商売そのものも、どこか少しずつ姿を変えてきた。
ある寒い日の午後、そんなことをぼんやり考えながら出勤したときだった。
店の前のスペース——正確には、軒下のちょっとした雨避けのあたりに、ダンボールの上に腰を下ろした一人の老人の姿が目に入った。
「……ん?あれは……?」
何かが引っかかった。普通の光景とは思えなかった。
私は店内に入り、バイトの子に聞いた。
「外にいるおじいさん、何か知ってる?」
すると、彼女は一瞬ぽかんとした後、はっとしたように目を見開いた。
「え!? さっきの人!? え、うそ、あの人そこにいたんですか?」
話を聞くと、そのおじいさんはつい先ほど来店し、
「ダンボールをもらえませんか」
と声をかけてきたらしい。
何かを梱包するのだろうと思った彼女は、親切心から快く提供したという。
「そんなこと、よくある話だしな…」
私も正直、その場にいたら同じようにしていただろう。
けれど、彼は梱包などしていなかった。
そのダンボールを広げて、堂々とそこに「住みはじめて」いたのだ。
私はすぐにその様子を見に行かせたが、5分、10分待っても、彼女が戻ってこない。
さすがに気になって、私自身が様子を見にいくことにした。
軒下には、傘を広げ、風よけ代わりに立てかけ、堂々とくつろぐ老人の姿。
足元には脱いだ履物。
片手には酒の缶。もう一方の手には、何やらつまみらしきもの。
その姿は、「ちょっと休憩」なんてものじゃなかった。
「ここが俺の場所だ」と言わんばかりの居座りっぷりだった。
そして、その横で立ち尽くすバイトの子に、老人は大声で怒鳴りつけていた。
何を言っているかはよく聞こえなかったが、態度は明らかだった。
こちらに敵意があり、まともな会話をする気などない。
「これは、ちょっとまずいな」
そう感じた私は、穏やかに話しかけてみることにした。
「こんにちは。ここ、ちょっとお休みの場所には不向きなんですよね。通行の妨げにもなってしまうし——」
だが、返ってきたのは思いもよらぬ怒声だった。
「うるせぇ! えらそうに言いやがって! ここにいて何が悪い! 警察でも呼べ!」
おじいさんは、まったく酔っている様子はなかった。
それがまた逆に厄介だった。
酔って暴れているなら、ある程度の対応がある。
でも、これは明確な「意志」で居座っている。
あくまで冷静を保ちながらも、私は警察に連絡することを決めた。
この状況では、対話での解決は望めない。
何よりも、他のお客様にも迷惑がかかってしまう。
バイトの子の安全も心配だった。
警察に連絡している間も、おじいさんは怒鳴り続けていた。
そして、どこか誇らしげな表情すら見せていたのが印象的だった。
しばらくして警察が到着し、状況を説明すると、彼らはすぐに対応してくれた。
説得されながら、ようやくおじいさんは立ち去っていった。
残されたのは、使い古されたダンボールと、傘の水滴だけ。
店に戻ると、バイトの子が申し訳なさそうな顔で何度も謝ってきた。
「私が、ダンボールなんて渡したから……ほんとに、すみません」
でも、私は首を横に振った。
「いや、君は悪くない。誰でもそうする。むしろ、親切心があったからこそ、こうなっただけ。間違ってなんかないよ」
けれど、どうしても胸の奥に残るものがあった。
人の善意を、利用して当然のように踏みにじる人がいるという事実。
それに直面すると、なんとも言えない気持ちになる。
この仕事をしていると、こういう出来事はたまにある。
でも、今回は特にこたえた。
バイトの子の優しさが、ただただ無下にされてしまった気がして——
それが悔しかった。
いろんなことが変わる時代だ。
コンビニも、フランチャイズも、都市も、そして人の価値観も。
だけど、変わらずに持ち続けたいものもある。
「親切にしていい」と信じられる気持ち。
「ありがとう」が返ってくるはずだという、ささやかな期待。
その希望を、どんな出来事があっても手放したくない——
そう、思いながら、私は今日もまた店頭に出続ける。
この仕事は、そんな一日一日の積み重ねでできている。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。